幻聴が聞こえたら

幻覚の定義・分類など:ノート

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2007年5月6日

 昨日、筑波大学名誉教授の小田晋という方が執筆された『人はなぜ、幻覚するのか』(はまの出版)という本を読みました。題名の通り“幻覚”をテーマにした本なのですが、内容においては、幻覚の定義・分類・原因、妄想との違いなどについてふれられており、私は有益な情報であるように感じました。それで、重要であるように感じた部分をノートに書き留めておきましたので、それをそのまま記事として掲載させていただきます。なお、掲載した内容はそれ以外の可能性を否定するものではありません。

○“幻覚”とは何か?

 幻覚とは、私たちが外界を捉える際の“知覚の異常”の一形態をいう。

○知覚の異常

錯覚 現実に存在している物が違った風に見える
   ※ パレイドリア 壁のシミが人間の顔に見えるなども、錯覚の一種

幻覚 実体のない事物がそこに知覚される現象、対象のない知覚とも
   ※ テレビに出演している女性キャスターが、自分のことを好きだといっている声が実際に聞こえるなど
   ※ 宗教の文脈で、神や仏のお告げが聞こえるなどは、神や仏が存在しないとの前提がない限り、「対象のない知覚」として片づけられない可能性

 知覚の異常が生じると、自分の知覚のどこかがおかしいために周りの世界が変わって映るが、人間は自分の知覚がおかしくなったことはなかなか自認できないため、自分ではなく周りの世界が変わってきたように感じる傾向がある。

※ 精神障害者の傾向

 行動が極めて乱暴、仕事に従事できない状態、言動が非常に奇妙、周囲から「狂気」と受け取られている。そして、知覚については幻覚、思考については妄想に囚われていケースが多い。信仰と関係する幻覚・妄想とは一線を画す。

○幻覚の分類

偽幻覚 心の中で思い浮かべたこと、「表象」が鮮やかになり幻覚に近くなる。仕事でミスをして社長にこっぴどく怒鳴られ、帰宅した後にも関わらず社長の怒鳴り声が頭の中で鳴り響くなど。イメージとして現れるので輪郭ははっきりせず、消えたり現れたりする。

真性幻覚 知覚の一形態。当人にとって実在しているように知覚される。輪郭がはっきりしており、見ようと思って見るのではなく、現にあるものとして見る(聞こうと思って聞いているのではなく、現にあるものとして聞く)。体験している内容が、実際には存在しないものだということを、周囲の人がいくら言って聞かせても解らないのが特長。

幻覚症 判断の中枢が侵されておらず、現実に存在しないこと、幻覚であることが自分で解っているのに知覚されるケース。

離人症 精神的なエネルギーが低下したときに起きやすい症状。ものは見えているが、それが平板に見えたり、灰色に見えたりする。あるいは、立体感も実在感もない見え方をする。何をやっていても実感が湧かないと感じることがある。健康な人でも、神経が非常に疲れているとき、注意力が散漫になっているときによく起こる。

 フランスの哲学者ベルグソンは、人間の精神の機能の中で最もエネルギーの中心となるのは現実認識の機能だという。そして、それを支えているのは精神的な緊張感であるとしている。それが何かの原因で極度に消耗し、緊張感が低下すると、「精神衰弱症」に陥るという。

精神衰弱症  現実にそぐわないような行為をしたりすることがある。精神分裂病の初期、神経症で現れる。鬱状態の時に現れるのは、相当重症である証拠。

○幻覚の原因となる意識水準の低下について

 夢は、人間の意識の水準が低下した結果生じる。すなわち、意識の水準を低下させるような事柄は、私たちに幻覚をもたらし得る。

・アルコール
・依存性薬物の中毒(有機溶剤、大麻、LSD、メスカリン)
・脳の炎症、脳の外傷の後遺症
・てんかん、糖尿病、尿毒症、甲状腺疾患など内科の病気
・リュウマチなどの治療に用いる副腎皮質ホルモンの使いすぎ
・解熱剤の副作用
・高熱
・お年寄りの「盗られ妄想」
 お年寄りは、物を仕舞った後にその事を忘れてしまうことが多いが、それを、さっき誰かが家の中に入ってきて自分の物を盗んでいったなどと言い出すことがある。それは、老化のため視力や聴力が衰え、意識の水準が低下する時間帯があることが影響している。そして、記憶力が低下しているために、しまった場所を忘れてしまい盗まれたと勘違いする。

○意識がはっきりしていても現れる幻覚

 私たちは、自分の感覚が受けとめたものの全てを知覚しているわけではない。そうしたものの中から、自分にとって必要な情報だけを選んで知覚しながら生活している。ところが、その機能が破壊されて周りの情報が何もかも一緒くたになって頭に飛び込んでくると、自分にとって必要な情報を選り分けて認知することができなくなる。つまり、飛び込んでくる外界の印象に圧倒されてしまい、混乱に陥る。

○精神分裂病の“幻覚”進行プロセス

 周囲の世界が自分自身を圧倒してくる感じが、どんどん進行していく。自分の主体性が段々となくなって、周りから取り囲まれ、圧倒されていく過程、自分が周りに対してギブアップしていく過程の中で幻聴が現れる。

・離人症 自分の言っていること、していることの実感がない。自分でしているような気がしない。
・自生思考 自分の考えや言いたいことがひとりでに沸き上がってくるような現象
・思考化声 自分の言っていることの一部が声として聞こえてきたり、自分の考えていることが頭の中で鳴り響く
・思考伝播 自分が頭の中で考えたことが、他人に全て伝わってしまう
・考想察知 自分が頭の中で考えただけで、それが他人にキャッチされてしまう
・させられ体験 他人の考え方が声の形ではなく、直接自分の中に入ってきて、何かをさせられる
・精神運動性幻覚 他人が自分の口を借りてぶつぶつ言っているような現象

 ※ 精神分裂病による幻覚は、対象が外側にあると感じていても、その内容は自分の考えている物事に関わっている場合が多い。大抵、自分のことを噂したり、悪口を言ったり、誹謗、指図、命令などの本人にとって望ましくない内容。

精神病理学者マトゥーセック

「人間の知覚には三つの種類がある」第一段階 外形の近く、大きい・小さい・四角い・丸いとかいったこと
第2段階 動物を見て、狸である、狐であるなどと知覚すること
第3段階 のしかかる山、笑う花などといった、現象の背後にある本質がむき出しになるような知覚
     →この本質特性を感じ取れないのが、一種の離人症。本質性を感じとるのは前頭葉の最も高等な働き、つまりA10神経の働きによる。

ドイツの精神病理学者W・ブランケンブルグ

「人間は普通、努力しないでも自分の周囲のことで必要なことを自然にふるいにかけて知覚しており、自分の周囲のことの大半は、自然な、意識的な、当たり前のこととして受けとめている。この当たり前のことを「自明性」と名付けている。精神分裂病者の場合は、その当たり前のことが無くなる。それを「自明性」の喪失という」
 こうしたことが起きるのは脳の物質的な働きの基礎となっているドーパミンとA10神経の作用であることを、最近の生物学的精神医学の研究は暗示している。

○社会の近代化と幻覚の関係

 近代社会でも、その社会がどれほど近代化しているかによって、幻覚の現れ方に差がある。インドでは、欧米や日本に精神分裂病者に比べて、幻聴ではなくて幻視の方が多く生じるといわれている。インドの女性精神科医チャクラボーティーの指摘によると、近代合理主義の社会では、そういう自分のイメージを「見る」こと、つまり幻視は、非合理的なものだとして抑圧されているからだという。しかし、インドの文化にはその種の抑圧がないため、それが幻視として見えるのだという。聴覚は、視覚に比べると、より論理的、社会的な構造を持っているので、近代人は幻聴の方が主になり、幻視は少ない。

○憑依と幻覚

「憑依現象」とは、自分に他者が憑くことをいう。幻覚の一形態。日本人の場合、動物に憑かれるケースが多いが、江戸時代に多く、明治以後の近代化に伴い段々見られなくなる。最近は、自分がコンピューターに憑かれているなどと訴えるケースが増えている。

憑依現象 神や霊魂といった超人格的存在が自分の口を借りてものを言い、それを自分で意識している
交代人格 あるときは神になり、あるときは元の人間になり、それが交互に入れ替わる

○悪魔憑き

 ヨーロッパの中近世で多く見られた。テセグラスというフランスの精神病理学者は、悪魔が出現する場合は三つの形態があるとしている

外的悪魔症 悪魔が自分の背中にびたっと憑いたり、少し離れたところから自分に語りかけてきて色々と命令したりする感じのこと
内的悪魔症 悪魔が自分の中に入り込んで、自分を動かしているような感じを抱く。場合によっては、その際に悪魔と自分とが戦うこともある。自分が負けて、悪魔に支配されていると感じる場合には、悪魔の声や意思は自分の内部から伝わってくるし、幻覚が現れる。
真性悪魔症 本物の悪魔憑きであり、自分が悪魔に変身してしまっていると感じるもの。
 ※ 実際には、一人の患者が以上の三つを行ったり来たりすることがある。

○脳の障害による“幻覚”

 脳のどの辺りに障害があるかで、幻覚の内容が変わる。このことについては統計も出ている。

原因 脳腫瘍、脳幹性幻覚、視野の欠損の幻覚、頭部外傷性幻覚などのケースがある。お年寄りの場合は、老年性の精神障害が原因になる。

脳腫瘍の場合

・後頭葉(脳の後ろの部分) 視覚の中枢、はじめは光やものの形など、単純な幻視が見える。
・前頭葉 幻視が出現することが多い。前頭葉は理性を司る中枢なので、現実に対する判断に障害が起こり幻視が現れる。
・側頭葉 幻聴、幻視、幻触、幻味、幻嗅など、あらゆる幻覚が現れる。右側の側頭葉に腫瘍がある場合は、幻視が多く、離人症や既視感などもよく見られる。
・中脳や間脳の障害 「脳脚性幻覚症」と呼ばれる。目が覚めていても夢を見ているような状態

○“妄想”と“幻覚”の違い

 幻覚は知覚の一形態なので、見えたり聞こえたりする。それに対して妄想は、本人の考え方の問題であり、周囲の現実世界に対する誤った解釈をいう。人生は誤解の積み重ねだが、妄想は誤解に対して反証をつけ付けられても訂正しない状態だと定義することができる。つまり、“訂正不能の誤った観念”のこと。
 
○様々な妄想

被害妄想
 関係妄想 被害妄想の一番最初の形。自分と関係のないものを自分と関係づける。悪い方に関係づけていくことを被害妄想といい、自分が他人から危害を加えられていると感じる。誰かが自分を追いかけてくると感じるのは、追跡妄想。自分を守ってくれているという感じを受けるなどプラス方向に逆転する場合、恩寵妄想、庇護妄想がある。
誇大妄想 自分は他人より優れていると信じ、自己を過大評価する妄想。
赦免妄想 逮捕されて拘禁されている者が「自分は無罪になった」「恩赦されるはずだ」などと言い張る。
微小妄想 自分はつまらない存在だと思いこむ。鬱病に多い。
心気妄想 自分のからだが駄目になってしまったと感じる。
貧困妄想 経済的に破綻してしまったと考える。
罪悪妄想 社会に対して申し訳ないことをしたと考える。

○現代人の妄想のスタイル

アメリカの社会学者デービッド・リースマンは、近代人の生き方を「外周関心型」の生き方だと指摘している。

伝統関心型 家族的、地域的な行事などに関心があるタイプ。
内部関心型 自分自身の趣味に関心を向けるタイプ。
外周関心型 流行に関心があり、テレビやラジオで報道されることに興味がある。マスメディアから与えられる情報や娯楽に積極的に耳を傾けているタイプ。

 ※ 外周関心型は大都市に多く、内部関心型は相対的に中小都市に多く、農村には伝統関心型が多い。島村敏樹東京医科歯科大学名誉教授、倉持弘東武神経科病院長の両氏によると、現代人の生き方に外周関心型が多いのは、境界例型の精神分裂病が多いことと符合しているとのこと。

 ※ 大都市において、妄想を持つにしても壮大な妄想を持つのではなく、妄想と強迫観念の境界、正常と異常の境界、自分の他人の境界、社会と自分との関係、そうしたものがあまり鮮烈に対立せず、周囲との深い関係もないため、テレビなどを妄想の対象にして問題として表面化しないケースが少なからずある。現代人の妄想のパターンとして、周囲に適応できないまま、段々と自閉していくケースあり。